宇宙人オオタニサンとニッポンの宇宙開発
WBCワールドべースボールクラシック)大会に連日沸き立つ日本列島。第一次予選最終戦で二刀流大谷翔平選手が初回にいきなり放ったスリーランホームランは、3月6日に放った2打席連続スリーランに続く地球人離れした一撃でした。その翌7日でしたが、JAXA種子島宇宙センターからH3ロケットが打ち上げられました。国内を沸かせる連日の快挙!と喜んだ直後、所定の軌道にのせる見込みがなくなったとのことで破壊されました。前回の打ち上げ中止に続く驚愕の展開に、関係者皆さまの落胆ぶりはいかばかりかと、私の胸もキリキリと痛みました。
政治、経済、教育など日本のいろいろな分野で、ジェンダーギャップや少子高齢化への対応などで世界との隔たりが指摘されることにもずいぶん慣れてしまっていますが、とうとう日本が誇りとしてきた科学技術分野においても日本の劣化が顕わになってきたというのでしょうか。
大谷選手が二刀流としてやっていくことについて、当初はプロ野球OB始め各方面から厳しい批判があったことを覚えています。それを当時の日本ハム栗山監督は是とせず、大谷選手自身もおそるべき実績を打ち出すことで、全ての批判を見事に粉砕してしまいました。思えば、日本という国には同調圧力という伝統的習癖がありますから、集団の中で出る杭は直ちに打たれてしまいます。でも、どんなに打たれてもびくともしない己自身があれば、実績を通じてやがては他者の考え方をも変えられるということを、大谷選手は鮮やかに実証してくれました。その後のメジャーリーグでも活躍ぶりは誰しも知るところだと思います。他人と違っていて当然、さまざまな国籍の選手で構成されているメジャーリーグですから、大海に躍り出た大魚のように活き活きと、メジャーの球史やルールさえを塗り替え、まさに宇宙人としか思えません。そしてその宇宙人ぶりは、あたかも伝道師の伝道のように日々のゲームにおいて日本の選手たちへ還元されつつあるように見えています。
翻って、JAXAや三菱重工といった巨大な組織では、個人個人の働きはどのようなのでしょうか。数え切れないほどの部品の集合体であるロケットを、数え切れないほどの数式やコマンドでプログラミングされた複雑なシステムで宇宙へ向けて飛ばす、というプロジェクトにおいて突出した個人はあってはならないのだろうと想像します。ですが、人間のやることなのでミスや不備もあって当然なのです。そのとき、責任追及ではなくいち早く真相究明をし、次に活かすことのできる「意味のある失敗」とすることができれば、個々人の成長を図ることができる組織と言えるのではないでしょうか。
ニッポンが技術立国として復権し、世界の宇宙開発に貢献できるようになるかどうか、今が正念場だと思います。防衛予算ではなく、教育予算や科学技術振興予算に国力を投入し、優れた人材が失意のまま流出しそれきりになってしまわないよう対応することが急がれます。