WBC若侍が無言で語る試練の意味は

 東日本大震災から12年、急速に人口減が進む日本でも特に東北地方は大きな人口減で苦境に立たされています。あのとき、何もかも失われたかに見えた海辺の町でしたが、とても大きな存在を生み出していました。ワールドベースボールクラシック(WBC)大会でも大活躍の佐々木朗希投手です。侍JAPANの中でも特に傑出した存在の大谷翔平選手と並び、東北岩手県の出身。小3だった佐々木少年に、試練というには過酷すぎる現実が彼に襲いかかりました。津波でお父上と祖父母とを一度に失ってしまったのです。それからの彼には、内面的にも物的にも尋常でない厳しい生活があっただろうと想像します。試練はというものは、その人の大きさに合わせて訪れる、といわれることがあります。小さな少年の未来の大きさを、天は遥か以前に見越していたのでしょうか。今や彼は東北だけでなく、日本中に夢と希望を与える存在です。そういえば、侍JAPANで彼と同学年で仲の良い宮城大弥投手も、沖縄の経済的に厳しい家庭環境で育った大投手です。21世紀の日本で親子4人が6畳一間のアパートで暮らしていた、というちょっと信じがたい極貧の中から立身し、所属するオリックス・バファローズの2連覇に貢献しただけでなく、経済的に恵まれない少年少女のスポーツへの夢を諦めさせない「宮城大弥基金」をも作り上げました。2人がじゃれあっている姿は、普通の明るい若者にしか見えず、その実力とのギャップがとても魅力的です。
 災害も経済的困窮も、誰だっていつ直面するかわかりません。そのとき、一時的には打ちひしがれたとしても力強く這い上がり、やがては周囲の希望の星となれるかどうかは、逆境の運命を呪うのではなく、直面する試練に立ち向かう意志と明るい眼差しを保ち得るかどうか、にかかるのではないでしょうか。「 艱難汝を玉にす(かんなんなんじをたまにす)」という言葉がぴったりでWBC優勝の鍵を握る若侍2人が、低迷する日本社会に二筋の強い光を放ってくれているように感じられます。